みなさんこんにちはkazuです。
今日は板金塗装分野において、年間100社以上の工場へ行き、その会社の状態と社長を間近で見て話を聞く機会がある私の目線から考察したいと思います。
まずは問題点から。
①技術者、後継者不足
まず圧倒的に技術者の数が足りません。
整備士を志す人の数も年々減少し、自動車専門学校へ進学する人数が10年前の三分の一以下になっている事実を見れば板金塗装の道に進む人が少ないのは当然の事のように思います。
若者の車離れとよく言われますがそれ以前に自動車整備士、板金塗装技術職の社会的地位の低さによるものが大きいと感じます。
・初任給は圧倒的に安い
・労働時間が長い
・ディーラーは定休日が平日である場合がほとんど(板金塗装内製工場では日曜 定休の場合あり)、年間休日数が少ない
・一般修理工場は土曜も出勤。隔週休み。
いくら車が好きでも上記の理由から近年の若者たちの選択肢からは外れてしまいますよね。若者の働く価値観が私の時代から変化していることは受け入れなければならない事ですが、技術者減少に拍車をかけているように感じます。
次に後継者不足についてです。一般修理工場の社長さん方によくお聞きするのですが、後継者がいないという声を多く聞きます。
女性ももっと車に携わる社会になってほしいものですが基本的には男性が後継者として選ばれる世で、そもそも息子がいないし娘は嫁に行ったとか。一人娘の結婚相手でも仕事が自動車関連の婿さんなんてそう都合よく来ません。息子はいるが後を継ぎたくないという場合も多々あります。女性の社長さんにもたまにお会いしますが今のところ後継者がいないからやっている方にしかお会いできていません。
社長さん方からは「俺の代で終わりかなぁ」「死ぬまでボチボチ車いじって暮らすよ」なんて声をよく耳にします。
今、引退を目前にされた社長さん方は幼少の頃スーパーカーブームを経て日本車の黄金期を駆け抜け、並々ならぬ情熱を持って一代で会社を築き上げてきた方々です。心底車が好きでそれを原動力に仕事をしてこられたのだと思います。だから現役を退く年齢でも自動車の仕事に携ることができるのではないでしょうか。
しかしながら2代目世代、3代目世代になるにつれてブームも去り、自動車への情熱が薄れてゆき、自動車業界に携わる事に魅力を感じなくなっています。
2代目社長さんとお話しする機会は多いですが自動車に対する熱を感じないことが多いです。中には本当に車に情熱を持った方もいらっしゃいますが稀なケースだと思います。
私は車に対する情熱はある方だと自負しています。1970〜1980年代の日本車、いわゆる旧車が好きなので余計にかもしれませんが先代社長さんと話すときはとても話が弾みます。
YouTuberの発信からでしょうか、世間の風潮ですが『好きなことを仕事にする』ということが理想から現実となった昨今、様々な選択肢があり自分の仕事に疑問を持たれている方が多いはずです。昔のように親の後を継ぐ使命感だけでは割り切れない現代社会なのだと思います。親は子どもを想い、意思を尊重して人生の選択肢を与え、後継者がいなくなる。そんな悲しい現実があります。
②自動車の進化と部品素材の変化
次に自動車の進化についてです。現代の自動車は診断機がなければ作業が完結しない場合が多く、特に衝突被害軽減ブレーキやレーンキープ機能、自動運行や追従機能といった装置においてはフロントバンパ取替えやフロントガラス取替えなどで再設定作業を必要とします。
この機能については道路運送車両法で『特定整備制度』として法定整備に位置付けられ、調整を行う業者は基準を満たした作業場と再設定用の診断機(スキャンツール)とそれぞれの自動車メーカーのターゲットなどを備える必要があります。
正直数年はこの作業だけで稼げるとも考えましたが再設定の工数はさほど高くはないですし、ディーラーで可能な作業なので設備を既に揃えている場合でなければ難しいとの結論に至り断念しました。
輸入車では例えばヘッドランプを取り替えた場合、診断機を繋いでメーカーと通信を行い設定を済ませないとヘッドランプが点灯しないものもあります。盗難防止目的と聞きましたが部品販売部門においての流通をコントロールする目的もあるのではないでしょうか。
診断機は決して安い物ではなく、導入に躊躇される社長さんもいらっしゃいます。
しかしながらこれから徐々にオートメーション化されていく自動車のシステムになくてはならない物であることは言うまでもありません。
今までも国からの補助等ありましたが、導入しやすい環境をつくるために今後はさらに補助金や支援制度を充実させてほしいものです。
次に部品の素材についてです。
自動車のボデーには様々な材料が使用されています。大まかに分けると
◇樹脂
・FRP (ファイバーリーンホースドプラスチック)
・CFRP (カーボン 〃 )
◇鉄
・高張力鋼板(熱間、冷間など)
◇アルミ
◇ステンレス
などです。
近年車体の軽量化を主な理由として使用される素材が変わってきていますが、それと同時に修理する機材、道具は専用のものを使用しなければならず、設備投資に後ろ向きであったり技術的な向上を意識していない工場では修理ができない車が増えてきています。
③学習不足
私も現場にいた頃は今よりさらに未熟であった為、学ぶことを怠っていました。
私の現職業であるアジャスター職は様々な角度から自動車について勉強をしますので、修理をする際の手順や手法の知識が膨大となり、正直今現場に戻って作業したら現役時代よりも断然仕事ができると思います。
修理費の交渉の際に「こんな時間では終わるわけない」「指数なんて昔から変わっていないから今の車には合わない」と言う工場の声を聞きます。
そうは言ってしまえば簡単なことですが、職人として恥ずかしい事だと思わないんだろうか?と憤り、哀しさを覚えます。それと同時に自分が当時いかに無知で技術がない人間だったのかを思い知りゾッとします。
確かに中には指数内では不可能だろうという時もあります。経営者の立場であればコストをかけて行った作業の対価として発生する料金に不満を抱くこともあるでしょう。私も現場経験者ですからその辺りはよく理解できます。
しかし、多くの場合は知らないからできないという場合がほとんどで、行き当たりばったりに作業を進めるのではなく事故の形態、鋼板の種類や特徴、樹脂の特徴、修理技法等をよく学んでいれば「時間内にできない」ということはほぼないんだと今では実感しています。
常に学ぶことはどの分野においても必要ですね。
余談ですが私が修理費交渉において一番言われて嫌いなのは
「以前は認めてもらった」
です。
修理工場の皆さんはこれをもって自分の意見を通そうとすることが一番恥ずかしいことだと思った方がいいです。
私は根拠のないことで値切りのようなことはしていません。社内規定でも根拠のある基準を設けているわけですが自分が腹に落ちていないことは会社に歯向かってでも工場の味方になって支払う方向で押し通します。
ですのでお断りする根拠を説明した後にこれを言われると一気に冷めます。
確かに「前例があって今回は認められないのは何故か?」と思う気持ちはわかります。毎回毎回交渉をしているのも面倒なのはわかります。でもそれはお客様から依頼された仕事です。
前にも言いましたが誰のために保険請求を行っているのか?それは自分のお客様の為です。お客様に変わって保険会社と交渉をしているという意識で接していただきたいのです。
保険会社を敵視する方がいらっしゃいますが私たちはそうは思いません。不正請求などは絶対に看過しませんがそんな悪徳業者ではないみなさんとは良好な関係を築きたいと日々業務しています。
保険会社を敵視している方がいらっしゃったら明日からは今までと少し違った目線でお話頂けたら幸いです。
さて、暗い話ばかりしましたがいい話もあります。それは、
生き残れば必要とされる存在になり得る。
という事です。
自動車の進化や新たな修理技術に遅れる事なく邁進すれば技術者不足や後継者不足によりやむなく廃業した工場が増える一方でなくてはならない存在となることができるのではないでしょうか。
自動車業界における職人はもっと必要とされ、尊敬され、もっと社会的に認められる、そんな世の中になってほしいと切に願います。