タグ: 交渉

  • 国土交通省発表のガイドラインについて

    国土交通省発表のガイドラインについて

    自動車整備、板金塗装業界の皆様に向けて令和7年3月に指針として発表された国土交通省からの施策である『車体整備事業者による事故車修理の適切な価格交渉の促進のための施策』について、修理業界のベテラン社長でも施策の意図と違う解釈をされている方がいらっしゃいます。
    ここでは当該ガイドラインが何を言わんとしているのか、車体整備を営んでいる皆さんが何をすべきなのかを詳しく解説していきますので、しっかりと理解して保険会社に対しての交渉力を強化していきましょう。
    私は『真に適正な価格』を信念としています。失われつつある貴重な技術を守り、自らの意思において適正な価格で販売できる世の中を目指して一緒に進んでいきましょう。
    ※BM問題に端を発して令和6年3月に発表された『車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン』については別の記事で解説しています。
    ※一部、私の主観的な解釈が入っていますので国交省のガイドラインと併せてよくお読みいただき、皆様で個別に解釈とご理解を頂けますと幸いです。

    『車体整備業者による適切な価格交渉を促進するための指針』
    ここでは車体整備業界が抱える課題のひとつ『人材確保』について、この課題を解決するために魅力的な業界を構築する必要性から、労務費の転嫁率が低い受注者の割合が高い業種ワースト1位、低水準と言われている賃金の上昇によって魅力度の向上と、賃上げのための原資の確保を進めるべく修理業者にとって何が必要なのかを指針としてまとめてあります。
    車体整備業者が取り組むべき事項として大きく分けて9項目が下記の通りです。
    1.自社の責任と考えによる見積もりの作成
    2.人件費の上昇も考慮した工賃単価の提案
    3.作業時間の実態を踏まえた価格請求
    4.見積書、作業記録簿等の標準様式の使用
    5.代車費用の支払いに関する考え方の理解
    6.透明性・公平性が疑われないような請求・説明
    7.損害保険会社との交渉における留意点
    8.協定に時間を要する場合には依頼者に判断を仰ぐ
    9.依頼者に対する適切な情報提供
    一つずつ掘り下げて見ていきましょう。

    1.自社の責任と考えによる見積もりの作成
    ・見積もりの作成は、損害保険会社に委ねず、自社の責任で行うこと

    ここでは見積もり作成について述べています。近年では少数派になりましたが保険会社へ見積もりを作成依頼する修理業者がまだ存在します。これにはいくつか理由があるとは思いますが、単純に面倒だからといった理由が主ではないでしょうか。見積もりソフトを導入していないという理由や、そもそも見積もりが作成できない(わからない)という方は少数派になりつつある印象です。一番は「自分で時間をかけて見積もりしても保険会社が認めないなら最初から保険会社が認める範囲で見積もりを作って貰えばいい」という諦めにも似た理由が多いように感じます。これは修理工場の見積もりに対する知識不足や、仮に妥当な請求であっても妥当性の証明が不足していることによって保険会社が支払いたくても支払えない状態になっている事が主な原因と言えます。社会通念上妥当とされる見積もり内容にするには客観的な根拠が無ければ保険会社のみならず、今の時代ユーザーからも認めてもらえません。勿論、訴訟となった際に裁判所等の法的な機関からも認められないため、いくら大変だったからと言葉で訴えてもどうしようもないのです。
    車体整備において工賃を算出する上で一般的に使用されている『自研センター指数』ですが、結構毛嫌いされている修理業者の方が多いのではないでしょうか。これは過去に保険会社が自研センター指数を盾にして交渉を行い、そんな交渉に押さえつけられてきた歴史がそうさせているのは明らかです。
    しかし、法的にも客観的に認められる根拠となる指数は多くありませんし、基本的に多くの修理工場や保険会社が使用するのは自研センター指数がベースとなります。ですから自研センター指数を『準用』した請求をすることで、しっかりとした根拠立てができるようになることが重要です。これは別の記事で詳しく解説しますので是非ご覧ください。
    まずは見積もりの作成について、見積もりの作成のみならず自社の行った修理の請求に関して、しっかりとした客観的根拠を持って妥当性を説明できるようになりましょうという内容です。

    2.人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案
    ・工賃単価は、消費者物価指数のみならず人件費の上昇も考慮して提案すること。

    自社のレートを明確にして、正当な請求をしていきましょうという趣旨の項目です。工賃単価については過去数十年、ほとんど変わらず推移してきました。保険会社が独自の理論で組み立てた数値が現場の実態と乖離しているのに、大手ディーラーが年始にレートを握ってしまうため、車体整備業者が口を挟むことが難しく、これを変えようとする大きな動きがありませんでした。
    しかし、昨年度からこれが大きく変化してきています。ディーラーに関しても保険会社とレートの交渉において年始に価格を握らないところが大半となってきました。実は私も前々から車体整備のレートに関しては明らかに安いと感じており、修理工賃に関する全体的な市場性が上がっていかなければ車体整備業界に未来はないとの危機感から知り合いの国産系ディーラーの担当者には、年始に保険会社と単価協定をしないようにアドバイスしたり、車体整備業者には全体的な市場性の向上を目指してほしいという想いを伝え、真に適正な修理費であれば自分の会社から言われている事でも無視して工場の請求を通してきました。正直自分の首を絞めるだけなのであまり利口なやり方ではありませんが、車体整備業者、保険会社だけでなく自動車業界全体の地位向上のために必要なプロセスだと信じて行動してきましたが、時代とマッチしてようやく変化が起き始めています。
    現在の日本は失われた30年というワードが飛び交っていますね。政治によって国民が搾取され続けたが為に日本国民が貧困化しています。車体整備業界に関しても同じことが言えます。今年が最大のチャンスであり、2025年が変革の年となるはずです。
    しかし、思い通りのレートを請求するには車体整備業者にも工賃単価(自社レバレート)を提示できるだけの根拠とそれを説明できる知識が必要です。ですから会計士さんや税理士さんを交えて自社レートを算出し、ハッキリと説明できるようにしておくことが重要です。
    もう正直に言いますが、根拠のある自社レバレートが社会通念に照らして市場と大きく乖離していなければ保険会社はそれを否定することはできません。社会通念とは「社会一般に広く一般的に行き渡っている常識や見解」ですから全体的な相場の底上げが重要なのです。相場が上がらなければ私たちが理想とする真に適正な工賃に辿り着きません。
    更に言うと算出するに至る資料の提示が出来れば一番いいです。これは会社を運営する上で大変重要なポイントになるのは経営者の皆様ならご理解の上とは思います、それでも過去10数年、A4用紙一枚以上の根拠を提示してきた会社は私の経験上ありません。
    「割に合わない」「物価高でやっていけない」「材料が高騰している」といったような『理由』で単価を上げることになりましたと、それは言われなくてもわかってます。だけどそう言われても払えないんです。なぜなら根拠となる資料がないから。根拠がないと払えないのはなぜ?それは市場が安いままだから(社会通念上高いと言わざるを得ないから)。
    なら根拠のある資料を出しましょう。市場性が上がるまでそれをみんなで続けていきましょう。正当な請求ができるように学びましょう。
    簡易的なレート計算はインターネット上でできます。会計士が付いていなければまずはそこから始めましょう。
    保険会社が認める自社レバレートの算出方法と根拠資料については別記事で掲載予定です。是非そちらもご覧ください。

    3.作業時間の実態を踏まえた価格請求
    ・車両の状態が「指数」(標準的な作業時間)の前提と異なるなど、特殊事情がある場合は個別交渉すること。

    指数では割に合わないといった多くの声を受けてできた項目ですね。指数ではある程度の腐食や経年劣化による作業性の低下を盛り込んで作成しているという前提条件があることから、なかなかこれを覆す根拠立てをすることが困難です。そこで当該ガイドラインでは「作業者の経験・知識に関わらず作業時間が延びることがある」場合には保険会社にその旨を丁寧に説明し実際に要した作業時間を『客観的』に示して当該時間に応じた価格を請求することとしています。また、指数に含まれるとされる付随作業であっても、時間を要す場合は指数が妥当か検討すること、明らかに指数内では作業が困難な場合は国土交通省設置窓口へ情報提供を呼びかけています。
    これは指数の妥当性見直しや、適正価格の請求に寄与する重要なプロセスです。
    ここでポイントとなるのは作業時間を『客観的』に証明する必要性が示唆されていることです。
    説明責任という観点になりますが、以下が特に重要です。
    ・作業手順の理解・・・通常の手順(メーカー作業書手順)の熟知と実作業の差分を理解すること
    ・写真撮影による証明・・・作業内容、難易度がわかるように証拠として写真を撮影すること
    ・口頭による説明・・・写真をもとに実作業が指数と比較してどのような難易度であったか説明すること
    透明性や説明責任が求められている現代において、市場価格(指数や工数)より高い価格を請求するには客観的にその金額が妥当であるか証明する必要があります。面倒だからといって避けて通ることはできません。ユーザーへの説明責任も果たせると考えればこの手順をスタンダードにして損はないと思います。後のトラブルやクレームに対しても対応できますし、保険会社への説明も容易になります。ただし、ここまでやっても理解できないアジャスターがいた場合は即刻国土交通省に情報提供しましょう。

    4.見積書、作業記録簿等の標準様式の使用
    ・修理内容、費用を明確化し、透明性をもって請求すること
    -産業廃棄物処理費などにかかった費用を無かったことにしない
    -不合理な総額割引は見積もりの妥当性を失わせる恐れがある
    ※見積書、作業記録簿等の標準様式については国土交通省HPに掲載されている別添2→の中の別紙1、2に標準様式とされる見積書と車体整備記録簿が添付されていますのでそちらをご覧ください。

    ここでは、行った作業に対して書式を持ってその内容を記録、請求をする必要性を謳っています。『工賃一式』や『部品代一式』などの項目ではなく、例えばフロントバンパ交換作業であれば最低でも
    フロントバンパ  取替(工賃)  〇〇円
     フロントバンパ  (部品)   〇〇円
     クリップ     (部品)   〇〇円
     サイドサポート  (部品)   〇〇円
    システム診断    (点検)   〇〇円
    運転支援システム 調整(工賃)  〇〇円
    廃棄物処理費用  (産廃)    〇〇円 
                                   この程度までは書くことになるでしょう。
    省略しようと思えば2行で済む見積もりですが透明性もなく説明責任も果たせないということから、やったことはしっかりと記録、計上して請求に繋げていくという趣旨です。
    流石に工賃一式や部品一式といった項目を現代で使用している修理工場はごく少数派ですのでこれは極端な例ですが、一般的に請求から漏れている項目について漏れなく請求していきましょうという内容になります。
    ここで問題となるのが通常自社レバレート計算の際に『経費』として計上している項目については重複した請求になってしまう恐れがあります。
    例えば上記に挙げたような『産業廃棄物処分費用』、また『システム診断費用』の中に診断機自体の償却費が含まれている場合などです。
    産廃費用においては一般的に修理した車一台あたりの金額を算出する事が困難です。それはご存知の通り処理業者に廃棄物を処理依頼するときにはコンテナ1杯分といったようにまとめて依頼することになるためです。
    ですから工場経費としてレート計算の際に計上しているという実態があります。そうなれば当然レートに含んで請求しているわけですから個別に請求することは重複した請求ということになります。
    レバレート計算の際に工場経費として扱わず個別請求をしていく方針の場合は処理費用の相場から実際修理した車から発生した産業廃棄物のおおよその重量と処理相場を把握し、適正な価格を算出するということになります。
    保険会社が産業廃棄物処理費用を頑ななまでに支払いたくないというスタンスを取るかといえば指数対応単価を策定する際に環境費扱いで産廃費用を単価に盛り込んで計算しているからです。また、修理工場各社がどのようにレート計算しているかを完全に把握する事が難しいためでもあります。経営を考えた修理業者の社長さんは自社レバレートを会計士と共に算出していますが、そのように自社レート計算を行なっている業者は数%しかないということも問題の一つです。全ての修理業者が自社レートを計算し、レートに内包されている費用を把握し、請求すべき金額を把握し説明できるのであればアジャスターが交渉する事は相場との明らかな乖離を除いて殆どなくなります。特に指数対応単価が問題視されレバレートが尊重され始めた昨今、適正価格の実現に向けた取り掛かりとしてこの取り組みを進めていきましょう。

    5.代車費用の支払いに関する考え方の理解
    ・対物賠償責任保険における代車費用の支払いの考え方を理解すること
    (無過失でなくても過失割合に応じて代車費用が支払われる約款が多い等)

    修理業者の中にはいわゆる「0:100」の被害事故でなければ代車費用は支払われないという誤解をされているかたが多くいらっしゃいます。中には保険会社の社員でさえ誤解して運用しているケースも過去にはありました。
    本件解説するにあたって注意しなければならないのは、保険会社毎の約款によってこの解釈は異なるため請求者と支払者の関係である修理依頼者(保険契約者または被害者)から事故を担当する保険会社へ問い合わせしてもらうことが大切です。あくまでも請求者が事故との相当因果関係が認められる代車費用について賠償の範囲として加害側(保険会社)へ請求した場合に、貸出を行った修理工場に対して便宜的に損害賠償金をお支払いしているという構図であり、本来は修理工場が保険会社に請求するといった関係性ではありません。
    保険会社のスタンスも代車費用というわけではなく代車を用意してくれた工場に対して「謝礼金をお支払いする」といった形をとっています。そもそも工場代車とは修理期間中に無償で貸し出す『代わりの車』です。自動車貸渡業の認可がなく有償で貸し出すこと自体が違法ですから保険会社としては素直に日額で支払う事は違法行為を容認したことになります。そして修理業者にとっても大変なリスクがあり、請求にあたってはかなりグレーな部分と言えます。
    自家用自動車有償貸渡業の認可を受けている工場であれば問題ないことですが、認可のない修理業者の方たちは保険会社に対して間違った権利を主張することは控えるようにしましょう。
    さて、請求するにあたり前提となる情報をお伝えしたところで本題に移ります。責任割合について皆さんはどこまで理解されているでしょうか。「言われなくてもわかるよ」と仰る業者様も多いかと思いますが深い部分については別記事で詳しく解説するとして、ここでは基本かつ具体的なケースに触れていきます。
    ・責任割合「10:90」の場合
    登場人物AとBに分けてそれぞれに支払われる賠償額を考えていきましょう。
    ここでは皆さんのお客様はAさんとします。
    Aさん 修理費100万円(修理日数14日で費用2万円) 責任割合10% 総額102万円
    Bさん 修理費100万円(修理日数14日で費用2万円) 責任割合90% 総額102万円
    こんな事はあり得ませんが分かりやすく同じ金額同じ修理期間と仮定します。

    ・AさんはBさんから自分の修理費の90%である90万円と代車費用の90%である1.8万円の合計918,000円を受け取る権利があります。加えてBさんの修理費の10%である10万円と代車費用の10%である2千円の計102,000円を支払う義務があります。受取金額から支払額を差し引くと816,000円を受け取れる事となります。
    ・BさんはAさんから自分の修理費の10%である10万円と代車費用の10%である2千円の合計102,000円を受け取る権利があります。加えてAさんの修理費の90%である90万円と代車費用の90%である1.8万円の計918,000円を支払う義務があります。受取金額から支払額を差し引くと816,000円を支払うことになります。

    AさんとBさんの受取りと支払いの金額が一致しました。最終的にはBさんがAさんに816,000円を支払って解決となり、これが基本的な過失相殺の原理です。
    ここで重要なのは双方に責任割合分の費用を受け取る権利が発生しているという点です。
    つまりAさんに発生した代車費用20,000円の内、受け取る権利のある18,000円を修理工場の皆さんは相手(保険会社)から受け取る事ができます。正確にいうとAさんが18,000円の賠償を受け、修理工場へ支払う事ができるという事です。残りの2,000円はAさんが支払うか、サービスとするかは修理業者とAさんの問題ですから自由ですが基本的な考え方は以上となります。
    今まで責任が発生すると貰えないという誤解をされていた方からすると相当な金額差になりますね。
    責任割合の基本を理解し自社のお客さまが受け取れる代車費用をしっかり貰えるようにしましょう。ただし、注意したいのは保険会社同士で交渉している場合、示談交渉の条件に「代車費用について請求しない代わりに責任割合を1割譲歩する」という交渉をしているケースがあるので無理に請求を強行すると自社のお客様に不利な条件が発生する可能性があります。
    とは言えまずは保険会社へ「責任割合分の代車費用を請求したい」と申し伝えるようにしましょう。本当はお客様から要求を上げてもらう方がいいですが、自社のお客様には頼みにくいですよね。しっかりと事故の特性や示談の状況を理解してまずは請求する意思を示しましょう。

    6.透明性・公平性が疑われないような請求・説明
    ・価格の透明性・公平性を説明できるように、作業と請求を行うこと
    (恣意的に理由なく保険修理と、それ以外で価格を異ならせない等)

    ここでは端的にいうと、「保険修理と一般修理で理由なく価格の差があってはならない」ということが謳われています。修理業者でいた頃もアジャスターになってからも保険修理だからという理由で金額を自社で考える小売価格以上にしているという声を多く耳にしており、今に至るまでそんな実状がありました。
    適正な価格でより良いサービスをユーザーへ提供するのが企業としての規範であると私は考えますが、板金塗装業界においては不幸な事故に見舞われたお客様へは情も働き、できるだけ負担を少なくしてあげたいという意志で、安く良い物を提供したいという想いで、自社の利益を度外視する情に厚い社長様も存在します。一方で物を言いやすい保険会社に対しては市場価格またはそれ以上の請求をするという二面性が価格の透明性を損なう要因となっています。これは板金塗装や修理業界の信頼性を欠く事となり悪循環です。
    保険に関して正しい理解があれば『値引き』という手段を使わなくともお客様にとっても修理業者にとっても有益な方法が見えてきます。
    ここで謳われているのはお客様に対してだけではありません。「保険会社は依頼者の側に立って価格交渉を行うだけでなく、適正な損害査定及びそれに応じた保険金支払額の算定を行う社会的責任を担っている」とあります。保険会社側は保険のシステムを成り立たせるために適正な料金を算定する必要があり、社会の成り立ちとしては一理あります。
    修理業者にとってネックとなる文言がこの後に続きます。「損害保険会社から価格の透明性に関する指摘を受けた場合はそれぞれの指摘に対して真摯かつ誠実に説明することが求められる」と。これは保険会社にとって都合の良い文言ですね。工賃単価、作業内容、工数設定、高額となった理由等々、保険会社に説明する責任が発生したという事となり、「ウチはこの金額だから」とか、「今までずっとこうしてきた」などといった説明では成り立たなくなってしまったのです。そもそもそのような説明では本来成り立たないものを今までは強引に通す事ができた時代でもありましたがここ数年で大きく変わってきています。つまりはお客さまや保険会社にとって納得感のある請求を透明性を持って行っていく事が重要という事ですが、そのためには様々な知識を得る必要がありますので自信がないという修理業者様はこの機会に一緒に学んでいきましょう。

    7.損害保険会社との交渉における留意点
    ・損害保険会社と見解が相違する場合は丁寧に説明し、損保会社に対しても丁寧な説明を求め、双方が建設的に対話すること
    ・保険の仕組みや賠償の考え方について説明を受け、理解すること
    ・「アジャスターや担当拠点には決定権がない」「地域相場で決まっている」など、不合理な説明で交渉が進まない場合には、必要に応じて国交省の窓口へ情報提供すること。

    ここで重要なのは見解の相違によって交渉が進まない場合どのようにしたら良いかという点です。そもそも丁寧な説明をお互いに励行し、建設的な対話を行なっていれば交渉が進まないなどということはそうそう起きません。先ずは丁寧に交渉をすることです。
    交渉において問題となるのは大きく分けて2つ『金額』による見解の相違と『保険の範囲』による見解の相違です。
    金額について一番問題となるのは指数対応単価とレバレートの見解相違です。これは近年物価上昇や賃金上昇に伴い単価の市場相場も上がってきている良い傾向と感じています。市場相場が上がれば保険会社も修理業者の主張を飲まざるを得ません(社会通念上不当に高額とは言えない)のでこの流れは切らずに続けていきたいですし、世の中の流れが良い傾向であると捉えています。
    金額については丁寧に対話すれば解決できるとして、保険の範囲についてが見解が相違しやすいところです。仮に全く同じ損傷の車があったとして、車両保険と対物賠償保険では支払い範囲が異なってきます。本来現状復旧、原状回復を基本としているため同じであるべきですが、約款によって支払可否が異なる部分や示談特性上支払う部分等、様々な理由が存在します。わかりやすい例で言うと『ステッカー貼り替え』です。ステッカーは社名等目的を持ったものでなければ装飾品に該当するため車両保険では支払対象外ですが、対物賠償においては原状回復の観点から支払対象となります。保険の範囲はケースバイケースですし損害保険を取り扱ってみないとわからないことですので信頼のできるアジャスターに相談することをお勧めします。示談代行経験がある中堅アジャスターが一番相談しやすいと思いますので探してみてください。管理者クラスになると様々なしがらみもあって言いたいことも言えない立場にもなりますし、若手は理解が足りない部分がありますのでやはり中堅クラスが良いですね。もちろん私でも大丈夫です。

    8.協定に時間を要する場合には依頼者に判断を仰ぐ
    ・1週間を超えて見解が相違する場合、依頼者に対して損害保険会社が提示する保険金の範囲では修理できない旨説明すること

    9.依頼者に対する適切な情報提供
    ・求められれば依頼者に対して作業内容と見積もりを丁寧に説明する事(保険金による修理は「現状復旧」であることなど)

    まだまだお伝えしたいことが沢山ありますし、書き足りないです。この業界が健全に発展できるように尽力して参る所存です。別記事も早急に書いてアップしますのでこのページにリンクを追加していきます。ブックマークやお気に入りに入れて追記や更新をチェックしていただけると幸いです。

  • アジャスターとの交渉

    アジャスターとの交渉

    みなさんこんにちはkazuです。

    修理工場と損保アジャスターとのやりとりについてみなさんはどう感じていますか?

    歴史ある修理工場の立場でアジャスターと様々な駆け引き、数々の交渉をされてきた社長さんや従業員さん。過去の経験からこうすればいいというある程度のマニュアルみたいなものを自分の中にで持っているのではないでしょうか。
    「アジャスターは敵だ」あるいは「アジャスターとは仲良くしたほうがいい」
    と、両極端な声が聞こえますがこれも過去の経験から得た考え方ですしどちらも正しいと思います。
    様々な考えがあるとは思いますがアジャスターといい距離感を保つための方法をお話ししようと思います。
    まずはアジャスター視点から。

    【アジャスターはサラリーマン。ある一定の決まり事に則って交渉する人間】

    資格取得や役職がつくとある程度の裁量を持たされますが基本的にはサラリーマンですのでコンプライアンスの徹底を指示されます。
    コンプライアンス=法令遵守、規則遵守
    ですね。
    私たちも定期的に研修を行ったり、同じメールが何度も送られてきたりと徹底的なまでにコンプラ、コンプラです。
    会社と修理工場に挟まれて現場の人間はすり減っていくばかりで正直うんざりしています。
    サラリーマンですから会社の言ったことをやらなければなりません。
    会社の基準も理解できますし、おそらく法的に戦ったら勝てるものも多いでしょう。
    ただ修理工場の苦労や苦悩も理解できますので私は工場側の言い分をしっかりと聞いた上でできるだけ寄り添った交渉、協定を心がけています。
    ですので初めから聞く耳を持たず敵対心剥き出しで交渉をされると非常に悲しいです。
    「寄り添いのスタンス」で業務をしているアジャスターもいるということは心に留めておいてほしいと切に願います。

    【アジャスターの立場が強かった時代があった?】

    聞いた話ですが一昔前は「アジャスター様」の時代があったようです。今では考えられませんがw
    ビール券をもらったり、接待を受けることもあったと聞きます。あくまでも昔の話ですが。
    歩合制かつ直行直帰だった頃は自らの裁量で仕事量を調整して日中ゴルフや温泉に行ってたなんて話も・・・
    良い?時代もあったものです。
    今では金銭はもちろんお歳暮や粗品のタオル、コーヒーやタバコの一本まで取引先から何かを受け取ることを徹底的に禁止されています。それが純粋な好意であったとしても丁重にお断りしなければなりません。断りきれない場合は上司に報告し、渡された物を後日お返しに行かなければならないのです。
    時間も徹底的に縛られます。人員は削減され仕事量は多く、生産性を上げると言っていながら新しい取り組みをいくつも課してきます。

    【利益を出したくて当然だけど損して得を取ろう】

    最近起業をして保険請求関連の仕事がよくわからないという方もいらっしゃいます。
    私はこういった方に対しては親身に丁寧に保険請求の方法をお伝えしています。
    というのも前述した通り「アジャスターは敵だ」との考えを持ってしまわないよう信頼関係を構築したいからです。
    また、修理工場と仲良くなってざっくばらんな話をし、困った時はお互い様。そんな関係を本心では望んでいます。

    修理工場の皆さんが「アジャスターは敵」という認識になってしまうのはアジャスターにも責任はあります。
    交渉ごとはお互いを尊重しなければ上手くまとまらないと思いますが一方的に減額を要求したり上から物を言ったりすれば誰だって「あいつは敵である」と認定してしまうはずです。上から物を言うアジャスターは過去の良い時代を忘れられない方達てしょう。対等な立場なわけですし、そもそも人に対して上から物を言ってはいけませんよね人として。
    逆もまた然りで、工場から突き放すような交渉をされると協力したくなくなります。人と人ですから相手を思いやる気持ちが大切ですね。

    工賃の請求で項目立てをする際に、取れる項目で取ろうというのは大切なことですがあまり細かいところに拘るのはやめた方がいいと感じます。例えば500円や1,000円の項目でも引いてほしいと言われることはありませんか?それはアジャスターが会社から払ってはいけないと言われている項目です。根拠があってのことではありますが項目によってはアジャスターの大半は「払ってもいいじゃないか」と思いながら交渉しています。他にも多くの『定量項目』すなわちここまでなら認めていいと会社から言われているものが多く存在します。いくつか例を挙げると・・・

    ・産業廃棄物処理費用
    ・写真費用
    ・ショートパーツ
    ・クーラントやフロンガスの量あたり単価
    ・コーティング費用
    ・4輪アライメント計測要否
    ・ライセンスプレート再発行や再封印手数料
                      などなど

    こういった定量項目で減額の申し入れがあった場合は真に必要な場合を除いて応じてあげてください。
    「定量項目なんだね?」と聞いてあげて、理解をしてあげてください。
    そうすることによって他の交渉が容易になりますし、他の項目のツッコミが緩くなります。
    例えば、ある程度板金工賃を盛っていたとしても目を瞑るようになります。
    回数を重ねた後の交渉にも効果が現れます。
    1,000円の項目に拘って引かないと、「払えない項目を無理に通すなら他で引かなければ」という心理になりますよね?
    であれば1,000円引いても板金で3,000円引かれるよりはいいと思いませんか?
    そもそも引く必要がないと思われてる方はいらっしゃると思いますが、交渉がすんなりいかないと時間が取られます。
    何よりも大切な「時間」を無駄にしないように何がより良いかは賢明な経営者様であればお分かりいただけるはずです。

    【スピーディに着地点を見つける】

    アジャスターは先ほどお話しした『定量項目』の他に『指数』や様々な物差しとなる基準をもとに自己見解を作成します。
    簡単に言ってしまえばその自己見解の『金額』と折り合いがつくかどうかが重要です。
    交渉の前にそもそも妥当な修理費がいくらと考えているかを聞くのが近道でしょう。

    また、その他にも協定見積もりに対する説明責任がついて回ります。
    分かりやすい例でいくと、100:0加害事故で相手の車がフロントバンパ取り替えのみの修理内容の場合、等級ダウンによる保険料差額が修理費より高い場合は等級ダウンをしないように相手の修理費を自己負担するというケースがあります。
    この場合加害者はできるだけ相手の修理費を安くしたいわけです。
    そんな事情があるのにも関わらず簡単に交換判断をしたり「何これ?」と思うような項目を計上して置けないわけです。
    つまり加害者に「何これ?」と言われたら説明するのはアジャスターなのです。
    保険だから、被害事故だからという理由では法的に問題があります。このあたりを是非ご理解いただきたいと思います。

  • 板金塗装業界の現状と今後

    板金塗装業界の現状と今後

    みなさんこんにちはkazuです。

    今日は板金塗装分野において、年間100社以上の工場へ行き、その会社の状態と社長を間近で見て話を聞く機会がある私の目線から考察したいと思います。

    まずは問題点から。

    ①技術者、後継者不足

    まず圧倒的に技術者の数が足りません。
    整備士を志す人の数も年々減少し、自動車専門学校へ進学する人数が10年前の三分の一以下になっている事実を見れば板金塗装の道に進む人が少ないのは当然の事のように思います。
    若者の車離れとよく言われますがそれ以前に自動車整備士、板金塗装技術職の社会的地位の低さによるものが大きいと感じます。
    ・初任給は圧倒的に安い
    ・労働時間が長い
    ・ディーラーは定休日が平日である場合がほとんど(板金塗装内製工場では日曜 定休の場合あり)、年間休日数が少ない
    ・一般修理工場は土曜も出勤。隔週休み。
    いくら車が好きでも上記の理由から近年の若者たちの選択肢からは外れてしまいますよね。若者の働く価値観が私の時代から変化していることは受け入れなければならない事ですが、技術者減少に拍車をかけているように感じます。

    次に後継者不足についてです。一般修理工場の社長さん方によくお聞きするのですが、後継者がいないという声を多く聞きます。
    女性ももっと車に携わる社会になってほしいものですが基本的には男性が後継者として選ばれる世で、そもそも息子がいないし娘は嫁に行ったとか。一人娘の結婚相手でも仕事が自動車関連の婿さんなんてそう都合よく来ません。息子はいるが後を継ぎたくないという場合も多々あります。女性の社長さんにもたまにお会いしますが今のところ後継者がいないからやっている方にしかお会いできていません。

    社長さん方からは「俺の代で終わりかなぁ」「死ぬまでボチボチ車いじって暮らすよ」なんて声をよく耳にします。

    今、引退を目前にされた社長さん方は幼少の頃スーパーカーブームを経て日本車の黄金期を駆け抜け、並々ならぬ情熱を持って一代で会社を築き上げてきた方々です。心底車が好きでそれを原動力に仕事をしてこられたのだと思います。だから現役を退く年齢でも自動車の仕事に携ることができるのではないでしょうか。
    しかしながら2代目世代、3代目世代になるにつれてブームも去り、自動車への情熱が薄れてゆき、自動車業界に携わる事に魅力を感じなくなっています。

    2代目社長さんとお話しする機会は多いですが自動車に対する熱を感じないことが多いです。中には本当に車に情熱を持った方もいらっしゃいますが稀なケースだと思います。

    私は車に対する情熱はある方だと自負しています。1970〜1980年代の日本車、いわゆる旧車が好きなので余計にかもしれませんが先代社長さんと話すときはとても話が弾みます。
    YouTuberの発信からでしょうか、世間の風潮ですが『好きなことを仕事にする』ということが理想から現実となった昨今、様々な選択肢があり自分の仕事に疑問を持たれている方が多いはずです。昔のように親の後を継ぐ使命感だけでは割り切れない現代社会なのだと思います。親は子どもを想い、意思を尊重して人生の選択肢を与え、後継者がいなくなる。そんな悲しい現実があります。

    ②自動車の進化と部品素材の変化

    次に自動車の進化についてです。現代の自動車は診断機がなければ作業が完結しない場合が多く、特に衝突被害軽減ブレーキやレーンキープ機能、自動運行や追従機能といった装置においてはフロントバンパ取替えやフロントガラス取替えなどで再設定作業を必要とします。
    この機能については道路運送車両法で『特定整備制度』として法定整備に位置付けられ、調整を行う業者は基準を満たした作業場と再設定用の診断機(スキャンツール)とそれぞれの自動車メーカーのターゲットなどを備える必要があります。
    正直数年はこの作業だけで稼げるとも考えましたが再設定の工数はさほど高くはないですし、ディーラーで可能な作業なので設備を既に揃えている場合でなければ難しいとの結論に至り断念しました。
    輸入車では例えばヘッドランプを取り替えた場合、診断機を繋いでメーカーと通信を行い設定を済ませないとヘッドランプが点灯しないものもあります。盗難防止目的と聞きましたが部品販売部門においての流通をコントロールする目的もあるのではないでしょうか。
    診断機は決して安い物ではなく、導入に躊躇される社長さんもいらっしゃいます。
    しかしながらこれから徐々にオートメーション化されていく自動車のシステムになくてはならない物であることは言うまでもありません。
    今までも国からの補助等ありましたが、導入しやすい環境をつくるために今後はさらに補助金や支援制度を充実させてほしいものです。

    次に部品の素材についてです。
    自動車のボデーには様々な材料が使用されています。大まかに分けると
    ◇樹脂
    ・FRP (ファイバーリーンホースドプラスチック)
    ・CFRP (カーボン 〃 )
    ◇鉄
    ・高張力鋼板(熱間、冷間など)
    ◇アルミ
    ◇ステンレス
    などです。

    近年車体の軽量化を主な理由として使用される素材が変わってきていますが、それと同時に修理する機材、道具は専用のものを使用しなければならず、設備投資に後ろ向きであったり技術的な向上を意識していない工場では修理ができない車が増えてきています。

    ③学習不足

    私も現場にいた頃は今よりさらに未熟であった為、学ぶことを怠っていました。
    私の現職業であるアジャスター職は様々な角度から自動車について勉強をしますので、修理をする際の手順や手法の知識が膨大となり、正直今現場に戻って作業したら現役時代よりも断然仕事ができると思います。
    修理費の交渉の際に「こんな時間では終わるわけない」「指数なんて昔から変わっていないから今の車には合わない」と言う工場の声を聞きます。
    そうは言ってしまえば簡単なことですが、職人として恥ずかしい事だと思わないんだろうか?と憤り、哀しさを覚えます。それと同時に自分が当時いかに無知で技術がない人間だったのかを思い知りゾッとします。
    確かに中には指数内では不可能だろうという時もあります。経営者の立場であればコストをかけて行った作業の対価として発生する料金に不満を抱くこともあるでしょう。私も現場経験者ですからその辺りはよく理解できます。
    しかし、多くの場合は知らないからできないという場合がほとんどで、行き当たりばったりに作業を進めるのではなく事故の形態、鋼板の種類や特徴、樹脂の特徴、修理技法等をよく学んでいれば「時間内にできない」ということはほぼないんだと今では実感しています。

    常に学ぶことはどの分野においても必要ですね。

    余談ですが私が修理費交渉において一番言われて嫌いなのは

    「以前は認めてもらった」

    です。

    修理工場の皆さんはこれをもって自分の意見を通そうとすることが一番恥ずかしいことだと思った方がいいです。

    私は根拠のないことで値切りのようなことはしていません。社内規定でも根拠のある基準を設けているわけですが自分が腹に落ちていないことは会社に歯向かってでも工場の味方になって支払う方向で押し通します。

    ですのでお断りする根拠を説明した後にこれを言われると一気に冷めます。
    確かに「前例があって今回は認められないのは何故か?」と思う気持ちはわかります。毎回毎回交渉をしているのも面倒なのはわかります。でもそれはお客様から依頼された仕事です。
    前にも言いましたが誰のために保険請求を行っているのか?それは自分のお客様の為です。お客様に変わって保険会社と交渉をしているという意識で接していただきたいのです。
    保険会社を敵視する方がいらっしゃいますが私たちはそうは思いません。不正請求などは絶対に看過しませんがそんな悪徳業者ではないみなさんとは良好な関係を築きたいと日々業務しています。
    保険会社を敵視している方がいらっしゃったら明日からは今までと少し違った目線でお話頂けたら幸いです。

    さて、暗い話ばかりしましたがいい話もあります。それは、

    生き残れば必要とされる存在になり得る。

    という事です。

    自動車の進化や新たな修理技術に遅れる事なく邁進すれば技術者不足や後継者不足によりやむなく廃業した工場が増える一方でなくてはならない存在となることができるのではないでしょうか。

    自動車業界における職人はもっと必要とされ、尊敬され、もっと社会的に認められる、そんな世の中になってほしいと切に願います。

  • 自動車保険で支払われるお金の話

    自動車保険で支払われるお金の話

    みなさんこんにちはkazuです。今回は保険金について少し突っ込んだお話をします。
    というのも先日身内が事故を起こしまして当事者の気持ちがよくわかったので同じような状況の方々には役に立つ情報かと思いました。事故は不幸なことです。そんな不幸に見舞われたときに保険金支払額を最適にに支払ってもらえるようにしたいですよね。
    いくつか例を出してお話ししていきますので最後までお付き合いください。

    因みに身内の事故は車対車で、身内の車は全損になりました。

    ◇過失割合ケーススタディ
    車両保険を付保していない方で車を修理する場合、双方に過失が発生するケースの場合、相手の車の修理にかかる費用の賠償は保険から全額(割合分)支払いをしますが、自分の車の修理費は自分の過失分だけ自己負担することとなります。
    ※過失とは非がある割合を100%とした場合に何%自分に非があるかを表す数値です。
    例えば自分の車の300,000円の修理費用に対し自分の過失割合が50:50の場合、150,000円を自己負担します。10:90の場合でも1割にあたる30,000円を自己負担しなければなりません。
    修理費用が大きい場合は過失割合の1割分が大きな争点になります。
    逆に修理費用が少額であっても保険使用すると保険料が上がってしまうためできるだけ過失割合を少なくして保険を使用せず、支払う金額を抑えたいと言う心理となるため同じく争点となります。

    ◇保険金と損害賠償金
    自動車保険において支払われるお金は保険金または賠償金であると言う点です。
    通常、車が故障して修理に出した場合に修理するためにかかった費用を支払いますよね。例えばバッテリーが上がってしまったので業者に依頼して出張してもらい交換してもらった場合、出張料5,000円、バッテリー部品代10,000円、工賃3,000円で合計18,000円+税を支払う。みたいな感じです。実際に行われたサービスに対して対価を支払うのが売り手と買い手の関係ですから当然です。

    しかし自動車の修理費に関しては保険金または賠償金であり、損害に対する支払いですので修理をしなくても修理費は支払われます。
    ※その支払い金額を適正に算出するのもアジャスターの仕事です。

    ◇過失割合ケーススタディ②
    例えば、出会い頭で事故を起こしたAさんとBさんがいたとします。
    Aさんを自分とした場合過失割合はAさんが30%、Bさんが70%で決定した場合
    Aさんの車の修理費用は300,000円。車両保険は無し。
    Bさんの車の修理費用は輸入車で高額のため1,000,000円。車両保険が有り。

    この場合単純にAさんとBさんの支払う額を計算すると、
    □Aさんは修理費用300,000円のうち70%の210,000円をBさんの保険会社から受け取り、残りの90,000円を自己負担します。(+等級ダウンの保険料差額)
    □Bさんは修理費用1,000,000円のうち30%の300,000円をAさんの保険会社から受け取り、残りの700,000円をBさん自身の車両保険から受け取ります。(+等級ダウンの保険料差額)

    いかがでしょうか。過失割合の大きなBさんは保険料差額のみの負担で済みますが過失割合の少ないAさんは自分にも非はあるにせよBさんの方が悪い事故なのに保険料差額に加えて90,000円も自己負担しなければなりません。
    車両保険を付保していないから仕方ないといえばそれまでですが実際車両保険って結構お高いので私も妻の車にしか付保していません。

    みなさん自分がAさんだったとしたら納得いきますか?車両保険ケチったから仕方ない?そうも考えられますが90,000円は大きいですよね。
    そんなAさんの自己負担を減らす方法があります。
    それは損害認定による支払いです。

    先ほどもお話しした通り保険金または賠償金は損害に対しての支払いであるため通常の売り買いとは異なります。
    よって保険会社に損害認定として修理をする前に損害額を支払ってもらうことで修理内容を自ら決定できるという状態になります。
    もしくは車を買い替える費用の一部にすることもできます。
    (※注意※修理をしない場合の支払い金額は基本的には非課税と認識していた方が賢明です)
    つまり自分が許容できる範囲で安全上、性能上、法律上問題ない部分に関しては修理をせずに損害額を受け取って過失分に補填することができます。

    但し、この方法で特に車を買い替える費用にする場合には問題もあります。
    ・内部損傷については修理してみないとわからないことがある
    車の構造は骨格を外板で覆うように組み立てられており、内部の損傷は分解、計測しないと確認ができない場合が多いからです。特に高級車になると樹脂のカバーできっちり囲まれているので補機類や骨格などの損害を分解前に確認することは難しくなっています。
    ・支払われた金額よりも修理費用の方が高額となってしまう
    上記の分解しなければ確認できない損害が後に発覚した場合に損害認定の際に計上していなかった部分は追加修理となりますので最悪は修理費用の方が上回ってしまう場合があります。
    ・修理工場によっては難色を示す、もしくは対応してくれない場合がある。
    損害認定に必要なことは損害の立証と請求です。完璧な請求をするためには損害を立証する必要があるのですが、手段としては写真撮影を用います。前述の通り分解しなければわからない損害を立証するには実際に分解作業を行う必要があり、損傷診断を行い、加えて見積もりを書く作業もあります。いわゆる手間がかかりますので仮に修理をしないで買い替えとなった場合は手間賃ゼロですからお客様サービスの範疇ということになってしまいます。
    修理をする場合でも損傷診断が完璧にできなかったり保険請求に不慣れな修理工場は立証をしきれないために認定額より修理費の方が高額となってしまう可能性を恐れて難色を示す場合があります。下手をすれば赤字になりますからね。
    ・損傷程度によっては過失分の補填に回す分がない場合もある
    これは車によっても損傷形態によっても異なるのでなんとも言えませんが、部品が損傷していて保険会社が取り替え妥当とする部品の中から再使用できるものがなければ成立しません。
    ・損害額に異議を申し立てられる可能性がある。
    これは稀なケースですが相手保険会社の契約者が修理費が高いと言ってくる可能性もゼロではありません。
    ・過失決定、示談までは保険金は支払われない。
    これは正直一番きついかもしれません。修理をした場合、今も修理工場が立て替えてくれる場合が多いですが、最近ディーラーなどでは入金が確認できなければ車を引き渡してくれない場合もあり、修理費を一旦全額建て替えるなんてことも。

    これらの問題を解決するにはいくつか方法があります。
    ・修理工場に車を修理する事を確約する。
    修理をする事で工場は利益を得られますし、損傷診断のための分解も修理の為に必要な作業なので無駄になりません。更には見積もり作成も通常必要ですから工場にとって全くの無駄にはなりません。
    ・車を買い替える場合はアジャスター立会いにて損害認定をしてもらう。
    前述の通り修理工場にとって全く利益にならない損害の立証作業を損保のアジャスターが査定する事で解決します。その際工場へは「買い替えるので修理費相当額を保険会社に出してもらって欲しい」と伝えるのがいいでしょう。そうすることで修理工場の手間を減らせます。上記Aさんのケースだと損害確認は相手保険会社が行うので相手保険会社へは「買い替えを検討しているので損害額を算出してほしい」と伝えるのがいいでしょう。
    アジャスターは基本的に現状認定できる損害を見積もりとして作成します。内部損傷は明らかに損傷が認められる場合を除き目視できなければ計上できません。
    車のフロント周りは高額部品が多く、一つの部品で100,000円以上の差が出ることもあります。コンプレッサーやオルタネータ、ハイブリッド車ならインバータなどの高額部品が損傷している可能性が見積もりに示唆されていたら有料でもいいので分解して確認して欲しいと修理工場へ依頼した方が良いでしょう。また、アジャスターが損害認定をすることで損害額に対して相手方から異議を唱えられたとしても工場や自分自身が説明責任を求められるようなことはなくなります。
    ・リサイクル部品を検討する
    いわゆる中古品です。自動車部品はヤフオクなんかでかなり広いジャンルで出ています。持ち込みすると嫌がる修理工場もあるので、損害認定を受けた後に「中古部品を使って安く仕上げて欲しい」と伝えましょう。修理が完了したら自費で支払いを済ませて保険金は自分に振り込んでもらうのがいいでしょう。
    ・金額次第で買い替えか修理かを決めたい場合
    もっとも多いケースですがこの場合は保険会社への認定額算出を依頼し、認定金額が算出された後に意向を決定しましょう。車の知識が無ければどうしたらいいかわからないと言うのが通常ですので任せるしかありません。
    損害額が確定すれば示談も前に進みやすくなるので早急に修理をするか買い替えをするか結論を出して損害額を確定させましょう。

    今回の話を簡単にまとめると
    ①修理しなくてもお金はもらえる。(※時価額を損害額が下回っている場合)
    ②自己負担を減らすには修理工場と損害保険会社をうまく使う。
    ③保険に詳しく、良心的かつ善良な車屋さんを選ぶ。
    ④直すのか直さないのか早く結論を出す。
    ※全損の場合は時価額の交渉をする←次回お話しします。

    ここまで書いてなんですがそもそも車両保険に加入していればこんなに頭を悩ます必要はありませんね。先日身内が車を一台潰しましたが車両保険に加入しておらず買い替えるにしてもお金に苦労しました(新しい車には車両保険を付保しました)。相手保険会社から提示された時価額が適正ではなかったため資料を添えて送付しました。相手も車両保険を付保していないため支払額に直結する過失割合についてはまだ決着がついていません。前述の通り身内の車は全損となったので争点は時価額と過失割合です。全損の場合は時価額が上限なので今回のような修理費から補填というプロセスは踏めないため時価額交渉のみとなります(相手方は修理費補填しているかもしれませんね)。
    もう事故から4ヶ月も経ちました。保険金が払われたのは人身障害の方だけで自動車の方は決着つかず。内情がわかる分あまり急かすつもりもないですが経過報告もないしそろそろ電話入れてみようかな。

    次回は時価額についてお話ししていきます。

    ※事故には様々なケースがあります。今回の方法は全ての事案に当てはまらないことをご了承ください。

  • 保険会社との交渉

    保険会社との交渉

    今後は修理工場目線とアジャスター目線を両方経験した私だからこそ辿りついた交渉のノウハウをご紹介していきたいと考えています。

    まず初めに、保険会社との交渉において大切な事は、なぜ修理工場が保険会社と金額の交渉をしなければならないかということを理解している事が重要です。

    大まかに分けて2つのケースでお話しします。

    1つ目は自損事故、単独事故と言われている事故形態で、被害者や加害者といった関係性がなく過失が発生しないケースです。

    2つ目は車対車の事故であり加害者と被害者の関係性がありいわゆる過失が発生するケースです。

    1つ目は納得できると思います。自社のお客様が自分で自分の車を壊して自分の保険を使用して自分の車を直すわけですから。

    難しいのは2つ目です。例えば過失が100:0と決まった案件の被害者(つまり過失が0の方)がお客様であった場合、加害者(過失が100の方)の契約している保険会社Aが損害確認から修理費の協定を行います(例外はありますので一般的なケースとして例とします)。

    加害者の保険会社Aと被害者の修理工場との交渉となるわけです。

    それぞれの立場をまとめると次のようになります

    ⑴加害者→被害者への賠償金支払いを保険会社Aへ一任

    ⑵被害者→加害者への賠償請求額の決定を修理工場へ一任

    という事になります。

    ここで重要な事は⑵です。よくお聞きするのは「ウチは修理した代金を払って貰えればいい」とか「ウチは修理屋だから言われたことをやるだけ」といった声です。無責任ですね。

    ところが⑵にもある通り、工場は加害者への賠償請求額の決定を任されているわけです。

    本来であれば被害者が加害者への請求を行うのですが⑴の通り保険会社が一任されています。また、自動車という専門的な修理金額の請求ができないこと、修理代金を一旦加害者を通して保険会社に請求すると、修理費の交渉において例えば修理項目が重複していて減額が適当であった場合、社会通念上明らかに高額な請求であった場合などでは被害者に自己負担が発生します。その他様々な理由から便宜上ですが保険会社と修理工場で直接交渉をするわけです。

    そして損害の立証は請求者に義務が生じます。つまり、一任されている修理工場にその義務が生じるわけです。例えば工場が損傷写真を撮り忘れ、損害の立証が出来ず修理費を支払ってもらえない場合はどうなるでしょうか。

    被害者であるお客様に支払わせるなんてできませんよね。

    いかがでしょうか?ご存知の方も多いと思いますが未だに無責任な事を言う工場は存在します。

    事故というマイナスなイベントにおいて保険会社とトラブルになって時間ばかりがかかってしまうことで一番辛い思いをするのは車の所有者、つまり自動車屋さんのお客様です。

    まずは今回取り上げた保険会社と修理工場の立ち位置を理解し、対等な立場で交渉に臨むということが大切です。

    それがひいてはお客様のためになるということなのですから。

    ではまた次回。